灰の降る夜

月曜日(9月14日)には雨が来る、とここ数日誰もが心待ちにしていた。9月に入ってから、高温で乾燥した日が続いている。森林火災の危険度が5段階評価で最も深刻な「最大限の警戒度」がほぼ全国で発せられていた。

今年は特にカステロブランコ周辺と北部そしてリスボン周辺で多くの森林火災が発生。私たちが住む中部は小規模な火災はあったものの、消防団の迅速な対応で、だいたい30分程度で抑えられてきた。

12日と13日の週末は、危険度が高いために屋外でのバーベキューも自粛するようにと、ニュースが流れていた。ちなみにバーベキューもするなと聞いたのは初めてだ。

さて、アルバ川平野を真下に見下ろす展望台がある。ピクニック用の石造りのテーブルやベンチもいくつかあり、道路脇だけれどもかなり広い。そこにあるキオスクを利用したレバノン屋台がオープンした。許可を取って店を運営しているのは最近、この辺りに現れたレバノン人。売っているのはマナイッシュ。鉄板の上で薄い丸いパンを焼き、その上にザター(オレガノとゴマと塩を混ぜた粉状のスパイス。オリーブオイルで湿したパンにつけて食べたりする)をふりかけたもの、あるいはトマトソースとチーズを塗ったちょっぴりスパイシーなものの2種類だ。飲み物はビール、ワイン、ジュース、カクテルなどなど。マナイッシュと名付けられたノラ猫もいる。

先週の土曜日に初めて遊びに行った。レバノン人の店主はいなかったが、手伝いのアメリカ人男性が一人で店を切り盛りしていた。とはいっても、私たちが着いたとき、ほかにはまだ客は一人もいなかった。彼はロングスカートをはき、セミロングの髪の毛を後ろで束ねていた。マナイッシュを作るのは初めてだと言って、最初の2枚はあまりうまくいかなかったから、とサービスしてくれた。そのうち、コロンビア人の夫婦とポルトガル人男性のグループが来た。店主も戻って来た。

周りは林。下の方に民家の明かりが見える。道路脇にポツンと立っているキオスクに集まってきたのは世界各国からポルトガルにやってきた人々。薄暗い明かりの中で会話が弾み、流れてくる音楽に合わせて踊った。

一週間後の土曜日の夜、私たちはまた、そのキオスクに来ていた。集まってきたのはスエーデン人、オランダ人、イスラエル人、英国人、日本人、アメリカ人、そしてもちろんレバノン人。一体ここは、どこなのだろう。スエーデン人は持ってきたギターで自作の曲を奏でる。その音楽に合わせて人々が踊り始める。日付が変わるまで、キオスクは賑わっていた。

あまりにも不思議な空間なので、日曜日にもまた出かけて行った。この日は午前中に発生したポルトガル南部での大規模な森林火災が、一日中燃え続けていた。風向きによっては、50キロ強離れているのに濃い煙が流れてくる。空の色が赤黄土色に染まるだけではなく、煙の匂いも漂ってくる。それでも、その不思議なキオスクにまた出かけたのは店主が旅に出る、というから。近いうちに、店を閉めるという。

軽い夕食を済ませ、夜7時頃、ちらちらと灰が舞う中、キオスクに向かった。途中、山脈の向こう側から煙が風で流されてくるのが見えた。山の向こう側、こちらからは見えないところで山火事は広がっているのだろう、煙が山脈の上を左右にかなり広い範囲に広がっているのが見えた。

この日、店主の友人であるスエーデン人のギター弾きが演奏のために用意されたパラソルの下で、自作の曲を演奏してくれた。道路脇の小さなキオスク。薄暗い明かり。時々通り過ぎる車。展望台から見える村々の民家の明かり。粉雪のように舞い降りてくる灰。様々な国籍の人たちがこの夜も集まってきた。

 

写真は上から

キオスクとマナイッシュを焼く店主(後方)

キオスクから展望台を望む

煙で赤くなった夕日

風で流される煙