人が消えた空港
6週間の予定だった一時帰国はコロナの影響で日本に足止めとなり、3ヶ月半に及んだ。そしてオランダ航空の片道切符で6月半ばにやっと日本を後にした。
成田空港から夜11時の便で出発のため、このような時期だからと余裕を見て3時間前には空港に到着していた。京成電鉄を使ったが、乗客はほとんどが成田駅までで降りてしまい、空港ターミナル駅まで行く乗客はほぼいない。通常、列車を降りるとすぐに検問があってパスポート等身分証明書を見せるのだが、係官は誰もおらず、警官が一人、ボックスの上から検問所を通る人を見守るばかりだった。ターミナルビルの地下にあるコンビニは開いていた。しんと静まり返ったビルをエレベーターで出発ロビーに向かう。私が乗る便がこの日の最終便。他の便は全てキャンセルなので、チェックインカウンターはオランダ航空の部分しか開いていない。通常通りの照明が出発ロビーを寒々と照らしている。人員を減らすために窓口を制限しただろうか、チェックインには時間がかかった。機内持ち込みの荷物が規定よりちょっと重かったが、乗客数が少なかったからだろう、何も言われることはなかった。
チェックインをしてから、中央ビルのショッピングモールを覗いてみたが、午後5時閉店という張り紙があるばかりで、店もレストランも開いていない。明るい照明が煌々と照らし出す人影のないショッピングエリアは明るいシャッター街のような、日常の中から人間だけがいなくなってしまったような不思議な空間だった。
オランダ航空では、客席乗務員と乗客の接触を最小限にするために、暖かい食事は1度は提供するが、アルコール類は提供しないということだった。せっかくだから、搭乗する前に離着陸する飛行機を眺めながらワインでも、と思っていたのだが、目論見は完全に外れてしまった。それに、考えてみればこの時期、運行している飛行機もほとんどなかった。
セキュリティ・チェックも出国審査も心なしか簡単だった気がする。係官も乗客である私たち同様、このコロナ禍下でどのように振舞っていいのか戸惑っているように見えた。「この人たちはこの時期に、危険な海外に行ってしまうのだ」と係官にうっすらとした悲壮感を持って見送られているような気がした。
出国審査後、普通ならば人で混み合っている免税店などをぬけて、出発ゲートに向う。ところが、こちら側も店は夕方5時で全て閉店。購入できるのは自販機で売っているソフトドリンクのみ。ガランとしている。誰もがなんとなくギクシャクした気持ちで、他人との距離を保とうとしているようだった。
空港メンテナンスの作業員だろうか、作業服を着た男性数人がシャッターの降りた店の前の床に座り込んで、自販機で購入したソフトドリンクを飲んでいた。
搭乗すると、割り当てられた座席の上にビニール袋に入った飲み物と軽食類がポンと置かれていた。乗客は3割くらいだろうか。そして、日本人乗務員がいなかった。1度、暖かいパスタのトマトソースの夕食が出たが、それ以外乗務員を見かけることはほぼ、なかった。
誰もが自分一人の世界に閉じこもって、人と接触しないように映画やゲームに集中しているように見えた。私は3席使ってゆっくりと横になって休んだ。
アムステルダムには現地時間で早朝到着。ゆっくり休めたので時差はあまり感じない。アムステルダムも、欧州入域審査前のエリアはかなり閑散としていたが、欧州側に入ると午前4時前でもソファに寝転がって休む人や、カフェの椅子やテーブルでPCを使っている人がそこそこいた。店は全て閉まっていたが、カフェが一箇所だけ開いていた。入店前には手指の消毒、マスクが義務付けられていた。飲み物等を購入して店内で飲食する場合には、人が混み合わないように店員がテーブルを指定した。私がリスボンまでの乗り継ぎ便に搭乗する頃には、店などがボツボツと開店し始めていたが、空港内はなんだか薄暗かった。
アムステルダムからリスボンまでの便は満席だった。マスクの着用は義務付けられていたが、こんなに人で混んでいる場所に来たのはコロナ感染が世界中に広がって外出が規制されて以来、初めてだった。コロナ以前であったら何も考えなかっただろうが、今では多少でも不安を覚えずにはいられない。
アムステルダムで既に欧州に入域しているので、ポルトガルでは何のチェックもなく、荷物を受け取って出てくるだけだ。リスボン空港に発着する飛行機もかなりの便がキャンセルしているので、人は少なかった。
昨晩日本を出発し、翌日の午前中にはリスボンに到着。機内泊一泊でもうリスボン。日本に足止めされている期間中、できることが限られて時間だけがたくさん手元にある中で、時間や曜日の感覚が薄まっていくような感じがしていた。迎えに来てくれた連れ合いが運転する車から青空の下に広がる見慣れた風景を眺めていた。成田を出てから24時間、日本はもう夜になっている。時間の感覚がずれてしまったような、狂ってしまったような感じだった。
写真は上から
オランダ航空以外の便がすべてキャンセルになっている電光掲示板
無人の出発ロビー
同じく無人の到着ロビー。東京オリンピックは見果てぬ夢か...。
座席に置かれた、飛行中の軽食と飲み物




- Log in to post comments