たった270グラムの命/ティシアがやってきた
道路脇に小さな毛糸玉のような赤ちゃんネコがうずくまっていた。目が開かず、危険に曝されていること等、全くわかっていない。鳴くでもなく、ただうずくまっていた。
放っておけずに拾い上げ、家に連れて帰った。よく見ると目が開いていない。生まれたばかりだからかも知れないが、明らかに何かの感染症で腫れている。息づかいも荒い。すぐに獣医に連れて行った。治療して完治したら、里親を探すつもりだった。
だが診断は思わしくなかった。ウイルス性結膜炎で右目は手遅れ、左目は治療で或る程度回復が期待できるが、どのくらい見えるようになるかはわからない、と言われた。感染症の治療と左目の温存のため、早速、点眼薬と軟膏、さらに抗生物質の治療を開始した。感染は呼吸器系にも及んでいた。
朝8時から深夜12時まで、ほとんど2時間置きに、何らかの処置をしなければならない。シュウシュウが感染しては困るので、子ネコは隔離してベランダで世話をすることにした。
266グラムしかない赤ちゃんネコ。生後2週間くらいだろうか。両手ですっぽりと包み込める。声もまだ出ない。缶詰のウエットフードは口まで持って行けば食べるが、排泄には補助が必要だ。無力で弱々しい、としか言いようがない。放っておいたら、簡単に死んでしまったことだろう。
一週間後に再度、獣医へ。結膜炎で右目に開いていた穴は塞がっていた。左目は思ったよりも順調に回復している、もう一週間、治療を継続しよう、ということに。片目だけでも視力が回復してくれれば、生活の質はグンと上がる。
そしてまた、一週間。回復はそんなに順調ではなかった。右目は既に失明している。左目は期待した程には回復していない。点眼薬と軟膏は継続、抗生物質をさらに強力なものに変更した。
この間、どうやって里親を見つけようかと考えていた。障害のある子ネコの里親探しは難しそうだ。健康でなければ医療費もかかるだろう。感染症が直らなければ死んでしまうかもしれない。でも、それなら他人に引き渡して不要なストレスを与えるよりは、最後まで家で面倒を見た方がいいかもしれない、と思い始めた。
私たちを信頼して頼り切っている小さな命を手の中に抱えながら、そんなことを考えるのは不謹慎な気もした。だが、シュウシュウが子ネコを恐れて(自分の体重の20分の1しかないのに!)、家に入ってこない。外で、ミュウ、ミュウと鳴きながら、訴えかけるように見つめる。
こちらの懸念をよそに、ソルスティシアは少しずつ、成長していった。そう、名前も付けてしまったのだ。ソルスティシア。ニックネームはティシアまたはティシャ。
一週間後にまた獣医へ。ティシアは生後一ヶ月半くらい。随分と活発に動き回るようになった。餌も赤ちゃん用の缶詰とミルクから離乳食のドライフードに変わり、トイレにもしっかりと自分で行かれるようになった。小さな犬のぬいぐるみをあげると、喜んでじゃれつく。表情も明るくなった。
感染症は直り、左目は多少視力が回復した。1ヶ月継続した治療は打ち切ることになった。
確かに視力障害はあるが、本人にしてみれば生まれつきだから、よく見えなくて当然、人間が傍らでかわいそうだとか考えてもそんなことはお構いなしだ。目が見えないから、注意深くておとなしいネコになるだろうと勝手に考えていた。だが、きちんと歩けるようになり、走れるようになると、ときどき家具にぶつかりながら、部屋中をすごい勢いで走り回るようになった。時々電池が切れた様にお気に入りのバスケットの中で10分くらい寝るが、起きるとまた走り出す。元気以上である。
友人たちは、家ネコということで飼い主探したら? とか、鳥を捕まえない子ネコとか言えば、もらってくれる人いるかもよ、と助言してはくれた。
だが一ヶ月間、毎日、何度も抱きかかえて薬をあげて、餌をあげて、トイレの世話までしていると、だんだん手放しがたくなってくる。何よりも、私たちはこの子に信頼されている。
シュウシュウは、夜になってティシアをバルスームに作った「ティシアの部屋」に入れると帰ってくるが、昼間はほとんど家に入って来てくれない。たまにティシアと顔を合わせると、時には鼻を突き合わせて臭いを嗅ぎ合ったりはするが、威嚇する。なのに、自分が逃げてしまう。ティシアはまだ、階段の上り下りが出来ない。シュウシュウは1階の入口近くに置いたえさは食べに入ってくる。ティシアが階段の上り下りが出来るようになる前に、仲良くなってもらいたい。
写真は上から、
拾って来たばかりのティシア
家に来て2週間、少し落ち着いて来たティシア
身繕いを始めたティシア
お気に入りのバスケットの中で




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