どうする、どうする、となりのキンタ(農地)?
ウチに隣接して小川まで続いている急斜面の土地が手に入れば、当分の間は水不足を心配しなくてもよくなる、と何年も考えていた。下草ぼうぼうで放置されているその土地は、森林火災の時期には大きな脅威となる。自分たちの土地ならば、思うように手入れもできるのに、と毎年、森林火災の時期になると不安になったが、持ち主が特定できずにいつしか忘れていた。
持ち主が特定できなかったのには訳がある。言葉の壁もあるが、この辺りでは(あるいはポルトガルの地方では?)、いとこ同士の結婚が多い。集落や村では誰も彼もが「従兄弟もしくは従姉妹」。しかも日本と違って、同じ名前の人ばかり(注)なのだ。「私の従姉妹のマリアが...」と言われても、みんなマリアなので(ポルトガル人はわかるようだが)どのマリアだかわからない(ちなみに隣のアリスはマリア・アリス。8人の妹がいたがみんな、マリア・ローザ、マリア・マニュエラ、マリア・グロリア...だった)。たとえ持ち主がはっきりしても、売る気がないかもしれないし、ガイジン=金持ち(ATM)と思われて法外な値段をふっかけられて不快な思いをしたくもなかった。
だから7月半ばに地元のフェルナンダがリスボンに住んでいる従姉妹を連れて突然、訪ねてきた時には驚いた。パオラ(もしかするとパオラ・マリア?)はやってくると、挨拶もそこそこに、「従姉妹から下の土地を買いたがっていると聞いたけれど、そろそろ売ろうかと思っているの。他にも希望者がいるけれど、隣人だからまず最初に声をかけてあげようかと思って」 と話し始めた。これよりはもうちょっと丁寧な言い回しだったかもしれないけれど、まあこんな感じだった。「小川も井戸もあるし、オリーブや果樹もたくさんあって、いい土地よ」 この日私は汗にまみれながらボロボロの作業服を着て庭の草取りをしていた。
値段を聞くと2800平方メートルで6500ユーロだという。この辺りではそれこそ法外な値段である。やっぱりガイジン・プライス? 偏見かもしれないけれど、金持ちのガイジンなら言い値で買うだろう、と言う態度が見え見えだった、ように思えた。連れ合いと相談してから連絡すると言って連絡先を教えてもらった。
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買うか買わないかは別として、所有者の連絡先がわかったのは収穫だった。パオラの両親がケアホームに入ってから15年近く、この土地はほぼ放ったらかしにされてきた。一度か二度、下草を刈るなど手入れはされたが、森林整備は毎年しなければあまり意味がない。だから手入れをするように申し入れたいとずっと思っていたのだ。放置されたこの土地で森林火災が起きなかったのは単に運が良かっただけ。ロシアン・ルーレットをやっているような気分だった。
森林火災防止のために、所有者には土地の手入れが義務付けられ、実刑を伴うかは知らないが農地や森林の放置を禁止する法律は一応ある。だが、放置する所有者の大抵はリスボンなど都市に出たりブラジルに移住して連絡が取れず、法律が守られることはほぼない。地方自治体が代わって整備しても、費用が請求できず、請求したところで財力がなければ、未回収で終わってしまう。本人は村に住んでいないからいいかもしれないが、一度森林火災が発生したならば多大な被害を被るのは地方に住む私たちである。
今年は珍しく、多分5年ぶりくらいにウチとそのキンタの境界にある幅3メートルもない農道の草を刈っていた。でもそれだけだった。パオラ曰く「これだけでも綺麗になれば随分違うわ」...違わないって...。
ちなみにこの農道は個人所有とはいえ、その先にある土地の所有者には使用する権利がある。借りていた車庫に行くのに私たちも使わせてもらっていた。誰も整備をしないから毎年、連れ合いが奉仕で草刈りをしていた。
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2800平方メートルで6500ユーロ。1平方メートルが2.32ユーロという計算になる。信頼できる地元の友人に相場を聞いて回った。ただの荒地ならば相場は1平方メートル50セントから75セントくらいだろうという。
それから一ヶ月ほどして、パオラが夫と共にやってきた。今回はきちんと事前に約束をしておいた。電話で、6500ユーロは高すぎる、どう考えてもこの半分以下の値段が相当だと思っている、と伝えた。交渉に応じるつもりがなければ、連絡してくることもないだろうと思っていたが、どうやら半額になっても手放したいらしい。
「相場を聞いて回ったけれど、1平方メートルで50セントから75セントが相場だと聞いたわよ。相場相当の値段ならば買い取るわ」と話すと、鼻で笑って「相場は1平方メートル2ユーロよ、水があるし、オリーブの木もあるし、農地としても最高よ。私の両親はここでさまざまな野菜を作っていたわ。えんどう豆なんて山ほど収穫していたんだから。50セントなんで荒野の値段よ」とまくしたてた。「こんなにいい土地なのよ、相場は1平方メートル2ユーロ」と繰り返す。強気である。引渡時に下草を刈るなど、きちんと整備するのかと聞くと、しないと言う。
下まで一緒に降りると言っていたので、どうやってこの棘のある下草が鬱蒼と生い茂っているところを降りるつもりだろうかと思っていたら、「あ、これじゃあ無理ね」とあっさり。境界線や「井戸」と言っていた水場を農道から指で指して終わり。
井戸に関しては、連れ合いが以前下まで降りて行った時に小川の本流の脇に水場、湾処(わんど)のようなものは目撃しているが、井戸はなかったと言っていた。「井戸はどこにあるの?」と聞くとその水場を指さして、「あれよ、井戸じゃなくて水場」と言い換えた。それでも流石に6500ユーロはふっかけすぎだと思ったのだろうか、値段は一気に4000ユーロまで下がった。
それにしてもまだ高い。彼らにしてみれば下草の整備に一銭もかけずに高額で売りつけて厄介払いしたいと言うところだろうか。下草を刈ったり、木の剪定など、この土地の整備をするとなると、最初の整備で少なくとも1000ユーロはかかる。4000ユーロも出して買って、その上1000ユーロも出して尻拭い? 種子島に漂着して、半年間、衣食住や船の修理など島主の世話になったあげく、お礼に進呈するのではなく鉄砲を売りつけたポルトガル人を思い出した。
翻って連れ合いは乗り気である。もし私たちが買わなければ、他の人が買って、成熟した木々を伐採してしまうかもしれない。今でもひどい状態だけれど、次の所有者がきちんと管理するとは限らない。私たちが購入すればこの小さな一角だけでも森林再生して次の世代に手渡すことができる。
理由はよくわかるが、売主の心象は良くはない。それに10年前ならば自分たちで手入れができたかもしれないが、これから歳は重ねる一方である。毎年の手入れは負担だし、わざわざ仕事を増やすことへの躊躇は大きい。
パオラはこの日のうちに交渉を成立させたかったのかもいしれないが、登記簿も持ってこなかった。登記簿とBUPi(正確に土地の広さを把握する公共計画)を見てからもう一度考えると言って引き取ってもらった。具体的な数字は一度もあげていないのに、パオラは何故か私が2000ユーロでなければ買わないと言ったと思い込んで「2000ユーロは安すぎる」と何度も繰り返していた(ということは3000ユーロくらいまで下げてもいいと思っているのかな?)。
数日して、登記簿が送られてきた。まず目についたのが敷地面積である。2380平方メートル。500平方メートル弱少ない。パオラの返事を待たずに私たちでBUPiを試してみると、面積は2000平方メートル前後。もちろん誤差は出るし、傾斜のきつい土地の測定は、例えば上空から見た場合と斜面に沿って測った場合で随分と異なるだろう。登記簿とBUPiがどのようにして土地の面積を測定したのかはわからない。
敷地面積を含めて疑問点と下草の整備が済んだ土地の購入希望価格を含めて、パオラに返信のメールを送った。(9月27日記。この項続く)
(注)基本的に聖人の名前をつける。例えば、マリアとかジョアオン。登録されていない名前(これまで誰もつけたことがない名前)をつける場合、手数料を支払ってその名前を登録しなくてはならない。すでに誰かが登録した名前については、誰でも使うことができる。
写真は上から
背丈よりも高い棘がある下草が多い茂った斜面を草を刈りながら前進する
農地というよりはジャングルである
確かに水はまだあったが、今年は7月に入るまで雨が降っていた
シュウシュウもついてきた。もしかすると彼女の領土が広がるかもしれない!?




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