レストラン・川魚しかないけれど
「Só Peixe do Rio!ー川魚しかないよ!」
12年前の7月の昼下がり、そのレストランに足を踏み入れると店主と思われる男性が声を張り上げた。ジリジリと肌を焼く暑い太陽の下、その村に一軒しかないカフェバー兼レストランには足元にはおこぼれの魚を狙ったネコたちがうろつき、店は満員で熱気に満ち溢れ、混沌としていた。
お客さんは地元(観光客もいたかも)ポルトガル人だけで、外国人は誰もいない。その言い方からして、「ガイジンのお客さんだ。川魚なんて食べたくないだろうに決まっている」と思っていたような口ぶりだった。もしかすると、ガイジンはポルトガルのレストランでは肉を注文するものだと思い込んでいたのだろうか。私たちにしてみれば「川魚! おいしそう!」である。「それ、いいですねえ」というと道路側の席に案内してくれた。相席である。
出てきたのは川魚の揚げ物とサラダ。それにもちろん、ワインである。それを美味しくいただいた。
それから随分と時間が経った。あの7月の暑い昼下がりの午後のことが私も連れ合いもどうしても忘れられずにいた。あの時の雰囲気、ドウロ川とサボール川が合流する河辺の砂浜、そこに生える高い木々と涼しい木陰...。いつかまた、あの「川魚しかないよ」レストランには行ってみたいと二人で話していた。そして、9月に入って機会が巡ってきた。ずっと寒かったのが9月11日(つまり大火のほんの数日前)からすこし暖かくなるという予報。思い切って行くことにした。
着いてみると、12年前と変わらない風景。すでに9月で忙しい季節が終わっているため、浜辺ではステージの撤去作業やスプリンクラーなどの点検が行われていた。川の水は澄み切っている。気温は高くないのに、それでも数人が浜辺で日光浴をしたり、水に入ったりしている。観光客はほとんどいない。
そしてあの「川魚しかないよ」レストラン。コロナ禍も乗り切って、営業を続けていてくれた(もちろん、まだあることは確認してからきたのだが)。記憶通りの佇まい。昼前の時間とあってか、閑散としている。お客さんとおぼしき数人が入り口の前のベンチで飲み物を飲んでいる。閑散としていたので心配したが、後で聞いてみると夏の忙しい時期が過ぎたからということだった。それでもポツポツと客が入り、私たちが出る頃にはほぼ満席になっていた。
時間はちょっと早かったが、12時少し前に入店すると、若い女性が出てきて、「川魚しかないのだけど」と言った。代が変わったのだろうか。食器棚には男性の写真が置いてある。この人が以前来た時に会った店主かなのだろうか。
「もちろんよ、その川魚を食べに来たのだから、何年も前と同じように」
出てきたのは川魚の揚げ物とサラダ、それから白ワイン。12年前の味と比べてどうなのかはわからないが、美味しかった。記憶と現実がこれほど一致する経験はあまりない。
そのレストランは、そんなに遠いわけではないが、日帰りにはちょっと距離があるという場所だ。そばのカステロ・ロドリゴに宿をとった。ここは新市街から2キロほどのところに城壁があり、城壁内も集落となっている。土産店がポツポツとならび、軽食飲み屋が一件あった。世界遺産に登録されるかもしれないということで、城壁内の住人は観光客の殺到で暮らしにくくなるだろうと家を売って転居することを考えているという。本当に小さな集落だが、手入れが届いていて可愛らしい。ただの観光で来るならば、2時間も見てまわれば十分かもしれない。でも、軽食飲み屋でワイングラスを傾けながら、マスターとママさん(というのだろうか、他にいい呼び方がわからない)とのおしゃべりは楽しかった。
写真は上から
12年前に撮った「川魚しかないよ」レストラン
今回撮った写真
川魚の揚げ物
川の合流地点の砂浜




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