巣立ちの時 クロジョウビタキの場合

ベランダの天井にクロジョウビタキのツガイ3、4組が巣を作り始めた。ベランダの真ん中にある梁の上である。鳥がこんなにとっ散らかしながら巣を作るとは知らなかった。苔とか枝とか葉っぱとか、巣になるよりも落ちてくる方が多いのではないかと思うくらい床には材料がバラバラと落ちてくる。それが風に吹かれてベランダのあちこちに散らばる。

こんなところに巣を作られたら糞害で大変なことになる。かわいそうな気もしたが、巣を作り始めるたびにつついて落として追い払った。連れ合いが丸めたビニール袋を梁と天井の間に詰めて隙間を埋めた。卵を産む前に何とか諦めてもらわねば。巣になりそうな木は周りにいくらでもある。少しすると鳥の姿が見えなくなった。やれやれ...。

それから数日後。どこからかピィピィと声がする。一体これは、と上を見上げると、何とほんの小さな隙間に巣が出来て、ヒナまでいるではないか! 一体いつ卵が孵ったのだろうか。親鳥がひっきりなしに虫を捕まえては巣に戻って子供たちに食べさせる。巣の下には段々、糞がたまってきた。

私たちがベランダにいると親鳥は最初かなり警戒していたがそのうち少し慣れてきた。その頃には下から見上げるとヒナたちの嘴が見えるようになってきた。ベランダの床にはどんどん糞が溜まっていく。親鳥は休む間もなくヒナに餌を運んでくる。そして数日が過ぎた。

ある日、一羽のヒナがベランダでピィピィと鳴き声をあげているのを見つけた。親鳥は側で見守っている様子。巣立ちができるほど育っていないように見える。巣から落ちたのかもしれない。近づかなくても、少し動くと驚いてすぐに物陰に逃げてしまう。放っておいたほうがいいかもと思って、一旦、家の中に入る。少ししてからまた見に行くと、ん? いない。探すと排水用の開口部に隠れていた。近寄ると 驚いたのだろうか、そこから下の木に向かって飛び降りていった。羽がまだ小さくて、羽ばたくという感じではない。庭に降りて探してみたが、見つけることはできなかった。

それからさらに数日。今度は肩を寄せ合っている2羽を見つけた。最初のヒナより倍くらい大きい。そっと近寄っても怖がって2羽とも物陰に隠れてしまう。親鳥がすぐ近くで飛びなさい、飛びなさい、と励ましている(多分)。ぴょんぴょんと跳ねながら移動しているが、2メートルくらいならば飛べるようだ。この日は2羽とも飛び発てず、ベランダの物陰で夜を明かした。そして翌日。親鳥はベランダの手すりに留まると体を上下に揺すりながら、しきりに飛ぶように促す。ちょっと目を離しているうちに、1羽が見えなくなった。行ってしまったのだ。仲が良さそうだったから、一緒に飛び立つのだと思っていた。当たり前だが鳥は人間が考えるようには考えない。

残されたもう1羽は数日前にまだ小さかった弟だか妹だかが飛び降りた排水用の開口部に留まって羽を動かしている。親鳥がしきりに呼んでいる。飛び立つ瞬間を待ちながら見守っていると長い時間が経ったような気になる。

巣立つ時が来た。羽をこすり合わせるように動かすと、そのヒナは飛び発っていった。あっけらかんとしたもので、ヒナが巣立ってしまうと親鳥もいなくなってしまう。ベランダにはからになった巣と糞と静寂だけが残った。

 

写真は上から

隙間に押し込むように作られた巣

ベランダで親に餌をねだる2羽

戸惑ったように肩を寄せ合う

クロジョウビタキの成鳥。